猫によくみられる攻撃行動として、「愛撫誘発性攻撃行動」があります。
今回は、この行動が関連していると考えられるスコティッシュフォールドの事例をご紹介します。
愛撫誘発性攻撃行動とは?
撫でて欲しい!と要求したり、しばらくの間は気持ちよさそうに撫でられているにも関わらず、その後突然撫でている人間に咬みつく行動を取る…それが、猫の「愛撫誘発性攻撃行動」です。
一般的には、「放っておいて」という意味に解釈されていますが、通常より触覚が過敏であるために攻撃してしまう猫もいるようです。また、触覚と疼痛の神経経路は共通しているため、繰り返し撫でられることで疼痛を感じたり、興奮することが原因となっている場合もあります。
なお、単純な愛撫誘発性攻撃行動ではなく、身体疾患による疼痛や不快感が潜んでおり、攻撃に至っている場合もあるため、注意が必要です。
ご相談の主旨
- ご家族及び他人への攻撃行動について、ご相談いただきました。
基本の情報
- 猫種:スコティッシュフォールド
- 年齢:8歳
- 性別:メス、不妊手術済み
- 飼い主さんは、お一人暮らし
- 同居猫あり(雑種、♀不妊手術済み、3歳、4kgちょっと)
- 本猫とは仲が悪いわけではない
- 生後2.5ヶ月でペットショップから迎えた
- ネコ同士の関わりがないまま2~3ヶ月で家に来たため、咬まれる痛みを知らないと聞いている
- 既往歴
- 半年前に尿石症
- 食欲が落ちて受診したところ、検査で尿路結石がみつかった
- 右尿管に結石があり、バイパス手術を勧められたが見送った
- その後食欲が戻り元気になった
- ひもの誤飲による腸閉塞で手術したことがある
- 半年前に尿石症
- 生活環境
- 住居の形態:一軒家
- 普段は、家の中を自由にしている
- 留守番は、ほとんどない
- トイレ:ケージ内に1個、同居猫ケージ内に1個(計2個)
- 固まる砂(香り付き)
- 排泄物の処理は1日1回
- ニオイがひどくなったら砂を全交換
- 生活習慣
- ごはん:ドライフード、半生フード、ウェットフード
- おやつ:あげていない
- 遊び:今はおもちゃには無関心で、遊ばない
- 同居猫が来てから遊ばなくなった
- 以前はボールを追いかけたり、猫じゃらしが好きだった
- その他の情報
- お母さんは3年前からご自宅でお店を始められた
- 一緒にいる頻度が減ったせいか、お母さんが座ると、猫が抱っこされに来る
- 同居猫に対して遠慮がち
- お母さんの膝にいても、同居猫が来ると譲る
- 2匹一緒に遊ぼうとすると、遊ばず同居猫に譲る
- お母さんは3年前からご自宅でお店を始められた
【猫の咬みつき】攻撃行動の経歴
- 咬むタイミング
- 抱っこして撫でていると咬む
- 顔を撫でようとして手を出すと咬む
- 爪切り、ブラッシング
- 頻度
- 抱っこする度に1回は咬む
- カウンセリング中も何回か咬もうとしていた
- 対象
- お母さん
- お客さん(親族、他人)
- 程度
- 歯形がつく
- 血が出ることもある
- 問題が始まった時期
- 家に来たときからある
- 最初は子猫の甘噛みと捉えていたが、いつのまにか本気噛みになっていた
- 威嚇したことはない
診断とお話し
- 猫ちゃんの咬む行動について、考えられる原因のは以下のとおりです。
- 愛撫誘発性攻撃行動
- 猫でよくみられ、撫でられているうちに突然咬んでしまう
- 身体の触られたくない場所を触られる嫌悪感に関連した葛藤性の攻撃
- 攻撃することで嫌なことが回避できると学習してしまった
- 体のどこかに疼痛があるために発生する攻撃
- スコティッシュフォールドは骨や軟骨のトラブルが多い猫種であるため、それに関連した疼痛が存在する可能性もある
- 尿路結石の経歴があるため、それに関連した疼痛や違和感が存在する可能性もある
- 愛撫誘発性攻撃行動
- 攻撃行動の頻度や程度が増す要因として、様々なストレスがかかっていることが考えられます。日常のストレスを軽減できるよう、環境を整え、対応していきましょう。
- バックグラウンドストレスとして考えられること
- 同居猫の存在
- 仲が悪いわけではないものの、遠慮がちで同居猫に譲ることが多いため、猫ちゃんは、今、少し自信をなくしてしまった状態になっていると考えられます。
- お母さんと過ごす時間が以前より少ないこと
- お店を始められたことや、同居猫に譲る機会が多いことから、以前よりお母さんと一緒にいられないと感じている可能性があります。
- トイレ環境
- 同居猫と2匹で使うことを考えると、より快適に使えるよう見直したほうがよいでしょう。
- 欲求の発散不足
- 同居猫に譲ってしまい、遊びの時間を持てていないことで、欲求が発散できていない状態が続いています。
- 身体的な疼痛や違和感
- 最近の疾患の経歴や猫種特性から考えると、現在も身体的な疼痛や違和感があり、ストレスに繋がっている可能性があります。
- 同居猫の存在
- 身体疾患からくる疼痛や違和感などが関連している可能性もあるため、今後もなんらかの症状がないか十分注意するとともに、かかりつけ動物病院の継続的な受診や治療が必要と考えられます。
具体的な対応策
- 咬む状況を発生させない
- 膝に乗ってきても撫でない
- お客さんが来るときはあらかじめ準備しておく
- 別室にいてもらう
- ケージに入っていてもらう
- 咬むことがわかっていることは、当面しない
- 爪切りなど(どうしても必要であれば、病院などでやってもらう)
- バックグラウンドストレスを減らす
- 遊びの時間を設ける
- 同居猫を気にせず遊べるよう、その時間は部屋を分ける
- その間、同居猫は自動おもちゃや知育おもちゃで一人遊びできるよう工夫する
- 好きなおもちゃを用意してお母さんとしっかり遊ぶ
- 同居猫を気にせず遊べるよう、その時間は部屋を分ける
- トイレ環境の整備
- 数:3~4個に増やしてみる
- 大きさ:大きなサイズのトイレも置いてみる
- 砂:香りのない砂にする
- 必要に応じて、病院を受診
- 身体疾患や疼痛についてチェックしてもらう
- 疼痛などの可能性があれば継続的に治療していく
- 遊びの時間を設ける
犬と猫の問題行動診療(犬の攻撃行動、猫の不適切排尿、咬みつきなど)
ぎふ動物行動クリニックでは、犬の攻撃行動や吠えの問題、猫の不適切排尿や咬みつき、過剰グルーミングなど、多岐にわたる問題行動について、ご相談を承っています。
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