ご相談の主旨

  • 家族や同居犬に対する攻撃行動についてご相談いただきました。

基本の情報

  • 犬種:ゴールデンレトリバー
  • 年齢:10か月
  • 性別:オス(去勢手術済み)
  • 飼い主さんは、50代ご夫婦と、20代と10代の娘さん、4人家族。
  • 同居犬が1頭いる(ラブラドールレトリバー1歳)。

【咬みつき】攻撃行動の経歴

  • 最近あった攻撃行動
    • [今年3月:娘さんへの攻撃]プラスチック製のゴミをくわえているのを発見したが、離さなかったので、苦いスプレーをかけたら離したと同時に手を咬んだ。
    • [今年4月:娘さんへの攻撃]犬をお風呂に入れてドライヤーで乾かし、サークルに入れた。その後フードを用意し、先にサークル内を片付けようとして犬をサークルから出したところ、突然手を咬んだ。3針ほど縫うケガをした。
    • [今年4月:お母さんへの攻撃]サークル内で食事をさせた後、隣のサークル内にいる同居犬に向かって、サークルをこじ開けて攻撃し、止めようとしたお母さんの膝と腕に咬みついた。
    • この時以外も強くかまれたことはあるが、血が出るほどではない。
    • お父さんに対しての攻撃もあるが、血が出るほど咬まれてはいない。
    • 興奮した時に攻撃することが多いが、興奮していなくても攻撃することはある。
  • 今まであった攻撃の経緯
    • 所有性の攻撃:飼い始めた当初から、何かをくわえた時に放さず、攻撃的になることがあった。ティッシュ、マスク、布製品などは特に放さなくなることが多く、初めのうちは取り上げようとして咬まれることが多かった。
    • 関心を引くための行動:飼い始めた頃から、構って欲しい時に咬む行動(甘噛み)が強かったが、家族は咬まれても我慢して、咬んだらサークルに入れるという対応を続けていた(改善はみられていないとのこと)。1月に入ってから、甘噛みだと思っていた咬む行動に関して、目の色が変わるように感じる瞬間が出てきた。
    • 同居犬への攻撃:飼い始めた当初から、食事の後、毎回ではないが同居犬に攻撃する。同時に食事を始め、同居犬の方が先に食べ終わるが、自分が食べ終わった瞬間に同居犬に攻撃する。また、それ以外の場面でも同居犬に対しては常に執拗にちょっかいをかけてしまうため、一緒にリビングに出せない。
    • 要求的な咬みつき:散歩中にリードが服の袖を咬んでくる。行き始めから発生することもあれば、ある程度歩いてからのこともある。また、家の中でもリードを付けると同様の咬みつきが発生する。
    • 遊び中の咬みつき:引っ張りっこをしている時に、うまく引っ張れなくなると、飛びかかってきて咬み、腕(袖)を加減なく強く引くため、服が破れる。
  • 攻撃に対する対応
    • 攻撃が発生したら、一旦ケージに戻し、落ち着くまで待つようにしている。
    • ケージに入れようとしても抵抗して入らないことが多い。興奮していなければ、オヤツで誘導すれば入るのだが、興奮している時は首輪をつかんで入れることもある。
  • その他の気になる点
    • 排泄の時にテンションが高くなり飛びついてくることがある。
    • 興奮すると咬んでくるが、咬む力が制御できていないと感じるところがある。
    • 物音に敏感で、眠っていてもすぐ起きてしまい、ぐっすり寝ている時間が短い。見守りモニターで見ても、動いていることが多い。
    • 娘さんを常に監視している雰囲気がある。
    • 尻尾の毛をむしる行動がある。皮膚などに異常はない。
    • 頻繁に水を飲みたがる。水入れを置いておくと全部飲むか、ひっくり返してしまうため、その都度あげるようにしているが、頻繁に欲しがる。
  • 問題行動について、トレーナーさんに相談したこともあり、物を取り上げる必要がないよう、リビングに放す前に落ちている物に注意するようアドバイスを受け、気を付けるようにしている。

お話し

  • 今回の問題行動については、関心を引くため/非常に強い遊びとしての攻撃行動と、食餌関連性攻撃行動、葛藤性攻撃行動が重層的に発生している状態と考えられます。
  • 尻尾の毛をむしる行動があること、多くの水を飲んでいることなど、衝動の制御が十分にできていない行動が見受けられます。咬みつきの強さが強いことも、衝動の制御に関係していると考えられます。
  • このような傾向は、生得的な、あるいは、家に来るまでの生育段階での影響は大きいと考えられます。
  • 一方で、相手によって態度を変えている点から、攻撃対象の反応によって、行動を選択していることが伺えます。基礎的に衝動を抑えにくい気質を持っているわけですが、それだけが行動の原因ではなく、家族との相互関係によって現在の行動が形成されていると言えます。
  • 改善においては、おやつやフードに対する欲求は高いことから、おやつやフードを使い、適切な行動を引き出してほめるということが基本となります。興奮の程度が高くなる前に落ち着かせることができれば、危険度は下がります。
  • 関心を引くため/非常に強い遊びとしての攻撃についても、適切な行動をすればおやつがもらえるという条件づけを行うことで、攻撃ではなく、適切な行動(オスワリなど)を選択するように誘導できるでしょう。
  • ちなみに、非常に強い遊びとしての攻撃については、そもそも遊びとは、相手との力比べという要素もあることから、遊びに負け続けると「相手は力の弱い存在で、自分の自由にできる存在だ」と思わせてしまうことがあります。今、お姉さんや、同居犬に対しては、強い遊びをしかけて、相手を制御している状態になっています。人間が主導権を握るには、そうした遊びの延長の攻撃をしかけさせないことが大切です。
  • 食事関連の攻撃については、フードの与え方を工夫することで生じにくくできるでしょう。

具体的な対応策

  • ご飯の与え方
    • 同居犬に対する攻撃を発生させないために、一緒の空間で与えないようにしましょう。
    • 1回のフードの量が多いと、価値が高くなり、それに起因する攻撃が発生しやすくなります。そのため、回数を増やし分散すると良いでしょう。
    • サークルに入っている時に、オスワリさせてフードを与えるという関わりは増やしてもらうといいでしょう。
  • 散歩中にフードを持って行って、フードを使ってほめる
    • ほめる頻度を高めると良いでしょう。例えば、電柱1本につき2~3回くらいほめてもいいでしょう。
  • 家の中でリードを付けてトレーニングする時間を作る
    • 初めは、リードを付けずにトレーニングの時間を持つようにしましょう。
    • 犬にとって難易度のとても低いこと(オスワリなど)でもほめるようにして、好意的に関わる時間を取るようにしましょう。
  • 遊び方の変更
    • 飼い主さんがフードを持って遊び、遊びの途中でオスワリをさせるようにしましょう。
    • オスワリは強要的にならないように気を付けましょう。
    • ほめ方については、テンションを上げすぎないよう、誉め言葉とフードでほめるようにしましょう。

薬物療法について

  • 塩酸フルオキセチンを使用していきましょう。
  • 副作用としては、食欲低下/下痢/眠くなりやすい などがあります。
  • 作用が発現するまでに2週間~4週間程度かかります。