ご相談の主旨

家族に対する攻撃行動に問題を感じ、ご相談いただきました。

本日お知らせいただいた内容(行動の経歴)

Sちゃんは8ヶ月の柴犬の未避妊の女の子で、友人さんから1ヶ月半の頃に迎えました。家に迎えて2日ほどはサークルに入れて生活していたものの、吠えるためにすぐにサークルでの飼育を断念したとのことでした。

その後、5カ月の頃に生理があり、その頃から物を守って強く咬みつくようになったとのことでした。体が大きくなり、机の上のものに手が届くようになったこともあり、本・ボールペン・リモコン・ペットボトルなどを取っては、ベッドの下に隠れ、非常に強い威嚇(吠えと唸り)と咬みつきが起こっているとのことでした。毎回、オヤツと交換しようとするものの、オヤツには見向きもせず、奪ったものを放そうとしないとのことでした。最終的には、咬まれながらも奪い返すか、そのままになってしまっているとのことでした(防虫剤は袋を開けて舐めていたので動物病院に連れて行ったとのこと)

一方で、フードを守ることはないとのことでした。引っ張りっこ遊びをするときは、唸り声を上げるものの、人のモノ(本・ボールペン・リモコン・ペットボトル等)を取った時の様に守ることはないとのことでした。

当サイトについて

当WEBサイトは、岐阜県岐阜市で行動診療を行っている、ぎふ動物行動クリニックが運営しています。当クリニックの院長奥田は、2017年に日本で8人目となる獣医行動診療科認定医を取得しています。
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こちらも是非ご一読ください。

適切な治療を行えば、多くの症例で症状が緩和されます。症状が悪化する前に、行動診療を行っている獣医師にご相談にお越しください。わからないこと、不安なことがあれば、当院にお気軽にお問合せください。
(ぎふ動物行動クリニック 獣医行動診療科認定医 奥田順之)
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診断とお話し

これまでの経緯と問題行動の発生している状況、カウンセリングの様子から、
所有性攻撃行動であると考えられます。

今回特に身体的な異常については、特に異常が見られているわけではありませんが、何かしらの異常が隠れている可能性も否定できません。必要に応じて血液検査やより精密な検査(脳派検査・MRI等)が必要になる場合もありますので、再診させていただきながら、かかりつけ動物病院等と連携して実施していきたいと思います。まずはすぐに家でできる対処を行っていきましょう。

物を守る行動は、防衛的な攻撃行動であり犬の正常な行動であるものの、Sちゃんの場合はその程度が強すぎると言えます。防衛的な攻撃行動のため、飼い主さんからの体罰や叱責が防衛心を助長することもしばしばあるため、物を奪われたことで飼い主さんが慌てることで、守る欲求を強めている可能性も考えられます。

生理になったことが関係している可能性もあります。生理後の偽妊娠状態により所有物を守ろうとする動機づけが強くなった可能性も考えられます。既に予定されていますが、今後のことも考えて、予定通り避妊手術を受けていただくようにしてください。

また、咬むことで所有物を守れる経験を繰り返したことにより、咬めば守れると学習し、攻撃行動が強化されていると考えられます。

今後の治療法・対処法

1. 物を取れるところにおかない
物を守る機会を与えなければ、攻撃行動は発生しません。まずは物を取れるところにおかないことが何よりも先決です。

2. 環境の改善
現在の自由な環境下ではいつ物を守っても仕方のない状況です。生活環境を改善し、サークル内で飼うようにし、サークルから出すときは常に監視できるようにしておきましょう。サークル内で休めない様なら、ハウスのトレーニングを実施します。またサークルは目隠しをして人から見えないようにしましょう。

3. ハウスリード
家の中でもサークルから出すときはリードをつけ、物をくわえないように注意しましょう。また、テーブルに足をかけそうになったら、リードを引いてかけさせないようにします。繰り返すことで、徐々にテーブルに足をかけないようになります。

4. 手からフードを与える
現在は発生していませんが、フードを守るようになることも考えられます。手からフードを与えるようにすることで、フードを守る習慣をつけさせないように予防しましょう。

5. 散歩の増加
体力が余っていれば余っているほど、探索したり、物を守る行動に発展しやすいですので、散歩を増やして体力を十分に使わせるようにしましょう。

6. 『はなして』の練習
ロープ遊びなど、通常の引っ張りっこ遊びの範囲でできるものから、『放して』のコマンドで放せるようにしていきます。実際のやり方については、カウンセリング内で簡単に紹介しましたが、詳しくは再診・レッスンの中でお伝えします。

7. 信頼関係構築トレーニング
信頼関係を作るトレーニングを実施しましょう。犬の扱い方を覚えることで、日々のコントロールがしやすくなります。犬の行動を指示でコントロールできれば物を取ってしまう状況を予防できるようになります。内容は再診の際にレクチャーいたします。

薬物療法について

今回、薬物療法として、塩酸フルオキセチンを使用し、反応を見ていきましょう。

◎ 塩酸フルオキセチン

フルオキセチン~行動の治療で使用される薬剤~

問題行動の治療でよく使用されるフルオキセチンについての紹介です。 塩酸フルオキセチンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬と言われる抗うつ剤で、脳内のセロトニンの…

飼い主さんへのコメント

攻撃行動は、まずは発生させないことが何より重要です。自由にしたいと思うのは無理のない事ですが、飼い主さんが咬まれてしまうのをまずは予防しなければ、いい関係は築けません。これを機に、規律ある犬との関係を築けるようにしていきましょう。

わからないことや改善の状況など、なんでもご相談ください。しっかりサポートして参りますので、一歩ずつ進んでいきましょう。
何かありましたらいつでもご連絡ください。

その後の経過1

環境改善により守らせる機会を減らしたことと、薬物療法の効果により、落ち着きが出て噛まれることがなくなったとのことでした。その後も環境改善と薬物療法を継続しています。

飼い主さんの家族の中にご高齢の方がいらっしゃるため、大けがにつながりやすいこともあり、今後も定期的にフォローアップをしていくこととなっております。